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Sendai Animal Care and Research Center

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伴侶動物の周術期管理


©2019 Sendai Animal Care and Research Center

【緒言】
弊所では伴侶動物の全身麻酔中の循環・呼吸管理や侵襲度の高い外科手術後の集中治療などの全身管理に着目した研究活動を展開し、その成果を世界に情報発信しています。研究成果の概要は「研究業績」を参照下さい。


伴侶動物の治療現場では、動物との意思疎通がままならない事も相まり、全身麻酔ないし鎮静を要する場面が数多く存在します。しかし、江戸時代の外科医であった華岡青洲先生が麻沸散を用いた全身麻酔下の外科手術を世界に先駆けて達成した日から今日に至るまで、全身麻酔の作用機序は未だに解明されていません。また、全身麻酔を構成する要素の1つである様々な鎮痛薬の中枢性(特に脳)侵害刺激遮断機序においても、必ずしもその全容が明らかにされている訳ではありません。さらに、神経科学においては、生物学的な鎮静の定義についても必ずしも明確にされてはいません。即ち、鎮静や侵害刺激の遮断を含めた全身麻酔を根本から理解するためには、科学的に未知な領域への挑戦が求められます。その一方で現場での対応としては、全身麻酔の作用機序の全容が必ずしも明らかでは無い事等に起因する有害事象に対して、ひとまずは目の前の伴侶動物の全身管理の安全性を高めるための工夫が必要になります。前者においては、広く獣医学からのアプローチも可能な学際領域にて取り組むべき科学的課題です。一方、後者においては医療で実践されている全身管理方法が伴侶動物にも活用できるかどうかを検証しその妥当性の評価を行う事で、目前に存在する治療課題に対する対応策へのヒントを得るきっかけになる可能性があります。

さらに、今日においては、伴侶動物の治療現場でも、医療を踏襲した集中治療や蘇生に挑戦する機会も増える傾向にあります。しかし、伴侶動物の治療においては、「集中治療 (Intensive care)」や「蘇生 (Resuscitation)」という言葉だけが独り歩きし、現場で実施しているパフォーマンスを裏付けるための体系だった情報や科学的な検証が不足しています。換言すると、目の前の症例に対して何かしらの対処を行わなければならないのは事実ですが、科学的側面においては学際領域における多角的な批判に耐える事ができる段階にはまだ達していないのが現状です。残念ながら、現段階では弊所が着目する伴侶動物の周術期管理・集中治療・蘇生などへの取り組みは「娯楽の世界」として認識されているようです。


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従って、長期的かつ真の意味で伴侶動物の治療が広く社会全体に認知されるためには、日常的な伴侶動物の救命活動のみならず、それと同時進行で科学的なアプローチにより社会にアピールする必要性がありそうです。例えば、弊所ならば、伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生に関する循環生理学、呼吸生理学、そして神経生理学などの学問を基盤とした病態ならびに薬理作用機序の解明や実際の症例から得られるデータの蓄積を行うような科学的活動を実施し、その成果を伴侶動物を対象とする獣医学領域以外の学術界にも情報発信する事で、その存在意義を社会に訴える事に貢献する可能性がありそうです。

さて、伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生においては、「これだけやっておけば大丈夫」といったような1対1対応の解決策が好まれる傾向にあるようです。しかし、対象が人ではなく伴侶動物であったとしても、周術期管理、集中治療、そして蘇生は生理学に立脚するため、「その場その場」、「その状況に合わせて」、そして「その症例に見合う」介入を行う必要性があります。即ち、伴侶動物のそれは医療に比較し経済的・技術的な制約があるのが実情ですが、地道な生理学の集大成である事に疑いはありません。この点においては、根拠に乏しく学問としての基盤が成熟していない側面を有する伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生は、逆説的に好意的な捉え方をするならば、難易度が高く挑戦的であるという解釈をする事も可能でしょう。そのような、ある意味で「不毛な世界(伴侶動物の治療に向き合う獣医師個々人により捉え方は変わります)」に足を踏み入れる我々は、物好きとも言えるでしょう。

しかしながら、このような日々の前向きな取り組みとは相反し、人間以外の動物種の中でも伴侶動物のみを対象に医療を模倣した治療の実施や科学的な背景を追求する事の社会的意義を考える必要性が出て来る可能性がありそうです。また、現実には、伴侶動物にカテゴライズされている動物種であっても飼育環境や経済的な理由による格差が存在します。「全人的医療」とは無縁である伴侶動物の治療は、様々な意味合いから恣意的な側面を有している事は否めません。伴侶動物の治療に携わる獣医師にとってこの事実と向き合う事は必ずしも容易ではなく、様々な意味からジレンマとなります。本件について見て見ぬふりをする事もできますが、本質的には決して目をそらす事ができない課題であると解釈するのが妥当であると考えられます。


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即ち、上記したジレンマを抱えた中で、人間以外の動物種の中でも伴侶動物のみを対象として医学を踏襲した周術期管理、集中治療、そして蘇生を実施する際には、人間と異なる高次機能や寿命を持つ「伴侶動物の福祉」についても、十分な検討事項が増えてくる可能性がありそうです。より明確に表現するならば、意思表示ができない伴侶動物の福祉の視点から、治療のエンド・ポイントについてどのような基準に基づき決定するのかという事が非常に重要になってくるはずです。但し、このような「ジレンマ」とて、ごく一部の経済的に恵まれた国家、あるいは歴史・文化的に人間以外の動物との関わりを重んじる国家において飼育される伴侶動物の治療に向き合う獣医師に限定された課題である可能性もあり、全世界共通の課題ではないのかもしれません。

このような様々な矛盾を抱えた伴侶動物の治療の背景を念頭に、弊所では、循環生理学と呼吸生理学に着目した症例研究ならびに、研究所外の学術機関との連携による分子・細胞レベルからの生理学的なメカニズムの解明に挑戦しています。この試みは、伴侶動物の福祉のみならず、1)「人類の健康のために命を捧げる実験動物の福祉」と2)「広く生命科学を介して人類の福祉に寄与すること」へのささやかな取り組みにもつながる事を目指しています。


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集中治療に関連する生理学分野の基礎研究成果は米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine: SCCM)などの北米や欧州諸国にて開催される学際領域の学術集会にて学会報告を行っています。

【弊所のミッションとビジョン】
世界的に、伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生法の発展は医学的知識や手技、そして非臨床研究成果を礎にしている事実を無視する事はできません。また、我が国の伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生の現場では高精細な検査機器、生体モニタリング機器、そして人工呼吸器の使用が可能です。世界を見渡しても、これほどまでに伴侶動物の救命に活用する事が可能な各種医療機器が身近に普及している国家は我が国を除き他には見当たりません。

世界初の全身麻酔下における外科手術を成功させたのは日本人外科医の華岡青洲先生でした(華岡先生は犬や猫などでも研究を行っていたという話もあるようです)。そして、繰り返しになりますが、現在においては、我が国の伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生の現場では世界中のどの国家よりも容易に高精細な救命の現場を支えるテクノロジーに触れる機会があり、そして最先端の医療機器を身近に使用する事が可能です。例えば、伴侶動物の周術期管理に医療で実践されているレベルと同等の特殊手技は存在せず、そこに求められるものは、生理学ならびに薬理学の基礎を習得した上で、生体モニタリング機器(*)を活用し伴侶動物の生理学的な状態をリアルタイムに把握し生体の恒常性維持に寄与すべく全身管理を行う事です(もちろん、意思疎通がままならない動物を対象とするため、モニタリングに関するテクノロジーを活用できない場面が数多く存在しますので、五感の活用の有用性は自明です)。

(*注意)
関連領域の大御所であるエラスムス大学教授のJean-Louis Vincent先生は、2011年の段階で「血行動態モニタリングを実施する事そのものが患者の予後を改善する事に寄与するわけではない」という見解を述べています(Vincent JL et al. 2011 Crit Care)。伴侶動物の治療の場では国内外を問わず、現段階においても、2011年の医療の段階にとて到達しておらず(今後も到達する可能性は無いと考えられます)、医療の場における血行動態モニタリングを引き合いに出す事自体がナンセンスですが、(当然ながら)様々なモニタリング機器(特に、ゴールド・スタンダードとされる侵襲的な肺動脈カテーテルや低侵襲・無侵襲循環動態モニタリング機器など)を導入する事により、伴侶動物の予後向上に寄与したとする報告は存在しません。現状では、伴侶動物の治療の場で医学を踏襲した血行動態モニタリングを真の意味で実現する事は困難です。しかし、可能な限りのモニタリング機器の活用は、広くモニタリングに関する「知識の普及」に貢献し、学際領域における他分野の専門家との議論の際に不可欠な血行動態モニタリングに関する共通言語や作法の習得に貢献すると考えられます。

伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生は基礎学問の習得、経験、そしてテクノロジーの活用に立脚する領域です。前者2つは自己完結するものであるため、まさに、技術立国である我が国には世界の追随を許さない伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生を先導するための恵まれた土壌があると言っても過言ではありません。繰り返しになりますが、華岡青洲先生の偉業は我が国で生まれたものです。さらに、今日においては、最新のテクノロジーを生み出す技術を有する我が国において、人間は当然ながら人間以外の動物種に対する周術期管理、集中治療、そして蘇生への最新の科学的知識・技術の発展の恩恵を還元する事は、世の中に新たな価値観を生み出し、文化的な側面からも人類の発展に寄与する事への第一歩となる可能性がありそうです。


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このような背景を踏まえ、弊所では人間を対象とした全身麻酔、集中治療、そして蘇生に比較すると見劣りすることは否めませんが、1)動物種が異なっても循環生理学、呼吸生理学、そして神経生理学の理論的背景が共通である事、2)弊所の獣医師が学際領域における非臨床研究の場で実験外科学や多種多様な実験動物の全身麻酔・疼痛管理に従事している研究者である事から、世界の伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生についての動向を踏まえた上で我が国ならではの学際領域における最先端の科学的知見・技術に立脚する当該領域における繊細な伴侶動物の治療を試みています。

即ち、獣医師としての視点から基礎医学・生物学研究に従事し、学際領域において多様な専門的背景を有する専門家と同じ土俵にて修練を行う事から得られる様々な経験・知識・手技を恣意的ではあるものの(短期的な目標として)、まずは社会の注目を浴びる可能性が高いと考えられる伴侶動物の治療へ還元する事を目標としています。


弊所の獣医師は学際領域における実験外科学や救急医学領域のトレーニングに参加しています。その一例として、Advanced Trauma Operative Management(ATOM)における動物の全身管理スタッフとしての参加証をご紹介します。*ATOMとは、救急医や外科医を対象とした外傷外科トレーニングです。このような訓練に参加する事で、多くの事を経験する事ができ、視野が広がります。

【結語】
1.獣医学の殻に閉じこもらず、学際領域における獣医学の存在意義を高められるような活動をライフ・ワークにしています。

2.獣医系の国際学術誌などの学術編集者(Academic editor)として弊所の獣医学研究者がターゲットとする学術領域の発展に寄与すべく活動を行っています。

3.学際領域に身を置いた修練から得られる柔軟な発想に基づき、伴侶動物の周術期管理、集中治療、そして蘇生に関する研究活動に挑戦しています。

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袋原どうぶつクリニック・仙台動物医科学研究所

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